Impressions and evaluation
ヤマト運輸の事業継承者である小倉昌男氏(2005年没)が、個人宅配市場に革命をもたらした「宅急便」サービスの誕生と発展について詳細に記した著書です。戦後の混乱期に経営の難しさを経験した小倉氏は、成功体験が経営判断の足枷になることを認識し、それを克服しつつ新たな市場に挑戦しました。特に「サービスが先、利益は後」という経営哲学が印象的で、物流の効率化を図りながらも顧客のニーズを最優先に考える姿勢が、ヤマト運輸を業界リーダーへと成長させました。
また、この本では「全員経営」の理念が導入され、社員一人ひとりが責任を持って業務を遂行する体制が整えられたことが詳述されています。人柄を重視した独自の人事・労務管理が、企業全体の一体感を生み、宅急便事業の発展に大きく寄与しました。
一方で、序盤から展開される運送業の詳細な話は難解に感じられる部分もありますが、無駄が省かれた展開と明確な考え方が記されており、理解しやすい内容となっています。第1部から第4章は特に内容が濃く、現在のヤマト運輸がどのような背景や成り立ちを経たのかがよくわかる章です。
この本は、現代でも十分通用する普遍的な経営哲学が詰まっており、物流業界や経営に携わるすべての人におすすめできる一冊です。
Impressive reviews from other watchers
Positive
クロネコヤマトの宅急便を生み出した小倉昌男氏の唯一の著書。一言で言うと痛快な経営の本だった。
過去の決断の背景、気持ち、考えを明らかにしている。サクセスストーリーを書く気はない、乏しい頭で私はどう考えたか、それだけを正直に書くつもりである、と著者はまえがきで書いている。
冒頭のエピソードは長年の取引があったり三越との事業からの撤退から始まり、理不尽なことに対しては一切筋を曲げない小倉氏の姿勢が描かれる。ここでまず引き込まれる。
日本一のトラック会社を受け継いだが時代の変化をしっかり捉えて、役員全員が反対した宅急便事業を軌道に乗せる。その間の黒字化に至るまでの不安も吐露されている。
信念の人であるが、外の目線は常に持ち続けている。外部からマーケティングの思想を学んだり、吉野家の単品経営を参照したり、マンハッタンでUPSのトラックを見て確信を持ったり、各地にアンテナを張り巡らす姿勢はとても印象深い。
この本の痛快さを2つ挙げるとすれば、運輸省との闘いと現場社員の自発性を促す仕組みづくりだろう。
前者は、「規制行政が時代遅れになっていることすら認識できない運輸省の役人の頭の悪さにはあきれるばかり」「倫理観のひとかけらもない運輸省などない方がいい」と切り捨てる。他方、労働組合の意欲を引き出し、「セールスドライバーは寿司職人」という。全員経営という言葉を小倉氏は使うが、こういう経営者のもとでは従業員もやりがいを感じるだろう。
最後のリーダーの10の条件を含めて、様々な学びにあふれている。読後感もとてもよい。過去に読んだ経営書の中では5本の指に入る本だった。
https://booklog.jp/users/b732a177ab139cb1/archives/1/4822241564
Negative
具体的な話に寄り過ぎて抽象性に欠ける。黒猫がどの様に行政を始めとしたしがらみと戦って市場を作り今の地位を築いたかという点を計り知れる。運輸業者のトラックを見る目が変わる。宅急便というのが商品でありクール宅急便が新商品であるというのは当たり前だが気付いていなかったところ。
https://booklog.jp/users/ysdnya/archives/1/4822241564