日本の民間企業が生み出す製品の品質、現場の技術力、そしてサービス精神は、今なお世界最高水準にあります。しかし、多くの国民が「生活が豊かにならない」「不便さが解消されない」と感じているのはなぜでしょうか。
その根本原因は、企業の活動を阻害し、国民の利便性を犠牲にして特定の既得権益を守り続ける「政府・行政の構造的欠陥」にあります。本稿では、日本社会に張り巡らされた規制の具体的実態と、なぜ日本政府は失敗を認められず軌道修正ができないのか、そしてこの状況下で私たちはどう振る舞うべきかについて詳述します。
第1章:国民の利便性を犠牲にする「見えない壁」一覧
「海外では当たり前の便利なサービスが、日本では使えない」。
この現象の裏には、ほぼ例外なく「既存業界の売上や雇用を守るための規制」 が存在します。消費者にとっては不利益でしかありませんが、特定の団体にとっては生命線となっている事例を分野別に列挙します。
1. 交通・インフラにおける「鎖国」
- ライドシェアの実質排除(対タクシー業界)
海外ではUberなどの一般ドライバーによる送迎が日常化し、安価で確実な移動手段となっています。しかし日本では、タクシー業界の売上保護と「安全」という建前により、原則として禁止(白タク行為)されています。「タクシーが呼べない、来ない」という利用者の悲鳴よりも、業界団体の保護が優先されている象徴的な事例です。 - 港湾の24時間化・自動化の拒絶(対港湾労組)
世界のハブ港が24時間365日稼働し自動化を進める中、日本の港湾は強力な労働組合の既得権益により、日曜日の休業や夜間の制限、自動化への抵抗が続いています。これにより、国際コンテナ船が日本を避けて釜山や上海へ向かう「日本抜港(ジャパン・パッシング)」が常態化し、物流コストの高止まりを招いています。 - 新電力への送電制限(対大手電力会社)
電力自由化後も、送電網(電線)を持つ旧一般電気事業者(東電や関電など)が圧倒的に有利な立場にあります。新規参入者(新電力)に対し、「送電枠に空きがない」等の理由で利用を制限したり、高額な託送料金を設定したりすることで、実質的な価格競争を阻害しています。
2. 医療・健康における「岩盤」
- オンライン診療・服薬指導の制限(対医師会・調剤薬局)
スマホ一つで診察から薬の配送まで完結する仕組みは技術的に可能ですが、日本医師会や薬剤師会は「対面診療の原則」を強く主張し、初診からの全面解禁に長年抵抗してきました。これは「医療の質」を守る側面もありますが、実態としては開業医や薬局の来院収益(点数)を守るための障壁となっています。 - 混合診療の禁止
保険診療と、最新の未承認治療(自由診療)を併用することを原則禁止しています。建前は「医療の平等のため」ですが、結果として患者は「全額自己負担」か「標準治療のみ」かの二択を迫られ、柔軟な医療選択が阻害されています。 - コンタクトレンズの診察強要
法的には処方箋提出義務がないにもかかわらず、眼科医と販売店が結託し、購入ごとの診察を事実上のルールとして運用しています。これは医療費の無駄遣いであり、眼科医の既得権益化しています。
3. メディア・情報の「独占」
- 記者クラブ制度(対大手マスコミ)
官公庁や警察の公式発表は、大手新聞やTV局が加盟する「記者クラブ」が独占しています。フリージャーナリストやネットメディア、海外メディアを排除することで、情報の非対称性を維持し、大手メディアにとって都合の悪い報道を防ぐカルテルとして機能しています。 - 電波オークションの拒否(対テレビ局)
先進国では公共の電波利用権を競争入札(オークション)で決めるのが一般的ですが、日本のテレビ局はこれを拒否。格安の電波利用料で既得権益を守り続けており、新規メディアや通信事業者の参入を阻んでいます。
4. その他、生活に根付く不合理な規制
- 車検制度の過剰検査
海外に比べ頻度も費用も過剰ですが、整備業界と検査法人(天下り先)の利益のために維持されています。 - 農地法の障壁
株式会社(一般企業)による農地所有を厳しく制限し、JA(農協)を中心とした古い農業構造を温存させています。 - 不動産レインズの閉鎖性
不動産業者が「両手取引(売主・買主双方から手数料を取る)」を行うため、物件データベースを一般消費者に公開せず、情報の透明性を阻害しています。
第2章:なぜ日本政府は「失敗」を認めて修正できないのか
北欧諸国、例えばスウェーデンの教育現場では、デジタル化を急速に進めた後、学力低下などの弊害が見えた段階ですぐに「紙の教科書との併用」へ方針転換しました。このように「やってみて、ダメならすぐ直す(アジャイル型)」 姿勢が世界のスタンダードになりつつあります。
対して日本は、「一度決めたら、失敗しても突き進む(硬直的ウォーターフォール型)」 姿勢を崩しません。なぜ日本は引き返せないのでしょうか。
1. 「無謬(むびゅう)性」の呪縛と減点主義
日本の官僚組織において、政策の変更や中止は「最初の計画にお前がハンコを押した時、見通しが甘かったんだろ?」 という責任追及に直結します。
「状況に合わせて賢く修正した」と評価される欧米と異なり、日本では「修正=過去のミス=無能」とみなされ、出世コースから外れます。そのため、組織全体が「成功しているフリ」を続け、破綻するまで止まることができません。
- 失敗事例:COCOA(接触確認アプリ)
不具合が多発し機能していないことが判明しても、海外のようにGoogle/Apple標準仕様へ素早く切り替える決断ができず、独自仕様の改修に固執し続け、多額の税金を浪費して終了しました。 - 失敗事例:アベノマスク
配布開始時点で「小さい・不良品・市場にマスクが戻り始めた」と不要論が噴出しても、配布計画を中止できず、巨額の保管料をかけ続けました。
2. 「予算」の硬直性
「予算は使い切るもの」という鉄則も修正を阻みます。予算を返納すれば「見積もりが下手」と評価され、翌年の予算を削られるため、効果がないと分かっていても無理やり事業を継続し、予算を消化しようとします。
3. 「日本特殊論」という言い訳
既得権益側が変化を拒む際の常套句が「日本は特別だから」です。「日本の治安は特殊」「日本人の国民性には合わない」といった情緒的な理由で、海外の合理的で成功している事例(Uberなど)を拒絶します。これは多くの場合、議論を停止させ、外圧(黒船)から自分たちの利権を守るための「鎖国」の方便に過ぎません。
第3章:司令塔不在の日本で生き抜く「選別」の戦略
政府の構造的な欠陥は深く、短期的にこの「岩盤」が崩れることは期待薄です。
では、私たち国民や投資家は指をくわえて見ているしかないのでしょうか? 答えは否です。日本の民間企業のポテンシャルは依然として高く、「政府の足かせを受けない領域」 を選別することで、成長の果実を得ることは可能です。
戦略1:「政府を無視できる」グローバル企業に賭ける
日本政府の悪影響(過剰規制、重税、少子化)が及ぶのは、あくまで「日本国内市場」です。したがって、「拠点は日本にあるが、市場は世界にある企業」 は、事実上、日本政府の無能さを無効化できています。
- 具体例:任天堂、ソニー、信越化学、キーエンス、トヨタ自動車など。
- これらの企業は、製品の品質やブランド力が圧倒的であり、世界の消費者が求めているため、日本政府がどうあろうと利益を出し続けます。投資や就職において、こうした「国境を超えた企業」を選ぶことは、日本の現場力(良い部分)だけを享受する最も賢い方法です。
戦略2:政府の「非効率」を逆手に取る企業を応援する
逆説的ですが、「政府が非効率であればあるほど儲かる民間企業」 が存在します。
役所の手続きが複雑、労働市場が硬直的、医療規制が厳しいといった「うんこみたいな状況」は、見方を変えれば「それを解決するサービス」への巨大な需要です。
- DX支援企業
行政や大企業の遅れたデジタル化を支援するBtoB IT企業。 - 人材サービス
流動性の低い労働市場の隙間を埋める転職エージェントや人材派遣。
これらは、日本社会のバグ(不具合)を修正することで利益を得ており、構造改革が進まない限り成長が約束されています。
戦略3:資産防衛としての「選別」
日本政府が既得権益を守るために経済の効率化を拒み続ければ、長期的には円の価値(国力)は低下します。
- 全世界株(オルカン)や米国株への投資により、資産の一部を「日本政府と心中しない」場所に置くこと。
- 一方で、個別株としては前述の「グローバル日本企業」を応援すること。
これは単なる金儲けではなく、「努力し革新する企業には資金を回し、既得権益にあぐらをかく企業や産業には一円も回さない」 という、国民による資本主義的な投票行動です。
結論
日本の不幸は、「現場の選手(民間)は一流なのに、監督(政府)が三流でルールも古い」ことに尽きます。
北欧のように柔軟に方針転換できる政府を望むのは理想ですが、現状ではそれを待つ時間は残されていません。
私たちは、規制に守られた古い産業を見限り、政府の足かせを跳ね除けて世界で戦う企業、あるいは政府の不作為を解決しようとする企業に、自らのリソース(資金・労働力)を集中させるべきです。それこそが、現状の閉塞感を打破し、日本の高い潜在能力を活かす唯一の現実的なアプローチです。