ご提示いただいた考え方は、行動経済学の要素を多分に含んでいますが、それ以外にも意思決定論や起業家精神(アントレプレナーシップ)論といった複数の学問領域にまたがる非常に鋭い洞察です。
リスクを取れる人の特徴を、学問的な視点から整理して解説します。
1. 行動経済学の視点 — プロスペクト理論と時間割引
リスクを恐れて「今ある分」に固執してしまう心理は、行動経済学の代表的な理論で説明できます。
プロスペクト理論(損失回避性)
人間は「得をすること」よりも「損をすること」を2倍近く強く感じてしまう性質があります。リスクを取れない人は、この損失回避性が強く働いており、将来の利益よりも現在の資産を失う恐怖を優先してしまいます。
時間割引(双曲割引)
「将来はあるもの」と信じて行動できる人は、専門用語で時間割引率が低いと言えます。これは、遠い将来の価値を高く見積もることができる能力です。逆に、今すぐの安心を優先する人は、将来の価値を低く見積もってしまい、投資や挑戦を後回しにする傾向があります。

2. 意思決定論の視点 — 満足化原理(Satisficing)
「60%の調査で行動する」というスタイルは、ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが提唱した意思決定論に該当します。
満足化原理(サティスファイシング)
完璧な情報を求めて100%を追求する人を「最大化人間」と呼ぶのに対し、ある程度の基準(例えば60%)を満たせば行動に移す人を満足化人間と呼びます。
- 最大化人間 — 調査に時間をかけすぎてチャンスを逃す
- 満足化人間 — 調査コストを抑え、行動によるフィードバックで修正していく
不確実な現代では、この「満足化」のスタイルの方が、結果的に生存戦略として優位に働くことが多いとされています。
3. 起業家精神(エフェクチュエーション)
将来を予測するのではなく「コントロール」しようとする考え方は、最新の起業家精神の研究であるエフェクチュエーションに非常に近いです。
許容可能な損失(Affordable Loss)
熟達した起業家は「いくら儲かるか」ではなく「いくらまでなら失っても大丈夫か」を基準に行動を決めます。ローンを組んででもリターンを狙いに行く行動は、単なるギャンブルではなく、自分がコントロールできる範囲でリソースを最大化しようとする戦略的な行動と言えます。
該当する学問のまとめ
ご質問の内容は、以下の学問の「いいとこ取り」をしたような実践的な知恵と言えます。
| 特徴 | 該当する学問分野 | 主なキーワード |
| 将来を信じて今を投じる | 行動経済学 | 低い時間割引率・プロスペクト理論 |
| 60%の調査で速く動く | 意思決定論 / 心理学 | 満足化(Satisficing) |
| お金を借りて増やす方向 | 経営学 / ファイナンス | レバレッジ・エフェクチュエーション |
リスクを取れる人は、単に度胸があるわけではなく「情報収集のコスト(時間)」と「機会損失(行動しないことの損)」を天秤にかける計算が、無意識のうちに最適化されているのだと考えられます。