人生を「道」にたとえるとき、私たちはしばしば「険しい」「平坦」という難易度で語りがちです。しかし同じくらい重要なのが「遠い」「近い」という距離感・時間軸です。本稿では、この二つを明確に区別しつつ、文学作品の例を交えながら論理的に掘り下げ、読後に「自分ならどの道を歩むか」を考えたくなる記事を目指します。
遠さ・近さと険しさ・平坦さは別軸である
1.
遠い/近い
- 目的地までに要する時間・距離を示す。
- 寄り道・回り道の多さ、経験の幅広さを含意する。
2.
険しい/平坦
- 道中に立ちはだかる困難・障害の多寡を示す。
- 距離が短くても断崖絶壁なら険しいし、長くても緩やかな丘陵なら平坦。
この二軸を混同しないことで、「遠回りだけれど穏やかな人生」「短距離だが険しい挑戦」など、より立体的に生き方を語れます。
文学に見る〈遠い道〉のイメージ
1.
『老子』第六十四章「千里の道も一歩から」
長い旅も、一歩の積み重ねでしか進まない──遠さは時間軸の問題であり、難易度を語っていない。
2.
ロバート・フロスト『選ばれざる道』
「分かれ道で私は人の少ない方を選んだ。それがすべてを変えた」。遠い道は未知の時間を背負う選択であり、必ずしも険しいとは書かれていない。
3.
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
果てしない星の旅は「遠い」けれど、ジョバンニの体験は静謐かつ内省的。ここでも距離=困難ではない。
これらの作品が示すのは、「遠さ」はしばしば精神的広がりや学びの豊穣さと結び付いている点です。
具体例で考える
同じ山頂を目指す二人の登山者
- Aさん:最短ルートの直登コース(距離は短いが岩場で険しい)
- Bさん:迂回する尾根コース(距離は長いが緩やか)
1.
目標到達は同じでも、Aさんは険しさを、Bさんは遠さを選択している。2.
Bさんは道中で高山植物や展望を楽しむ「学び」を得るかもしれない。3.
どちらが優れているわけでもなく、価値観に応じた選択と言える。
遠い道を選ぶ五つの効用
1.
経験値の蓄積:寄り道が多いぶん他領域の知識・人脈を得やすい。2.
柔軟な自己変容:長い時間があるため、途中で方向修正しやすい。3.
物事を俯瞰する視野:広い景色を眺める余裕が心を鍛える。4.
ストレスの分散:緩やかな勾配は急激な負荷を避けられる。5.
物語性の高い人生:後で振り返ったとき「語れるエピソード」が豊富。
近い道を選ぶ三つの効用
1.
迅速な成果:ゴールが早い分、達成感を早期に得られる。2.
集中力の最適化:短期集中で一点突破しやすい。3.
リスク期間の短縮:外部環境の変化に巻き込まれる期間が短い。
さいごに──自分の「軸」を意識して道を選ぶ
人生設計で迷ったら、まず距離(遠近)と難易度(険易)を分けて考えてみてください。
遠い道は「時間を味方に付ける選択」、近い道は「時間を投資圧縮する選択」です。そして、それが険しいか平坦かはまた別の判断軸。二つの座標を組み合わせれば、多様なキャリア・ライフプランの可能性が見えてきます。