【都心マンション価格高騰への処方箋】青山の「アフォーダブル住宅」は日本を救うか?

東京都心、特に港区南青山という超一等地で、東京都と野村不動産などの民間企業が連携し、「中所得者向け住宅(アフォーダブル住宅)」を供給するという画期的なニュースが流れました。

参考リンク https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/02619/

都心のマンション価格が一般サラリーマンの手の届かない水準に達する中、この取り組みは「住まいの格差」を解消するモデルケースとなり得るでしょうか。アフォーダブル住宅の仕組みと、今後の日本での普及の可能性について、建築・不動産の専門家の視点から解説します。


1. アフォーダブル住宅の仕組み|なぜ青山で安く住めるのか

「Affordable(アフォーダブル)」は「手が届く」という意味です。都心の高騰した市場価格では住めない、いわゆる「中間所得層(ミドル層)」をターゲットとした住宅です。

定義とターゲット

  • 定義
    公営住宅の所得制限は超えるが、市場価格の高級マンションは買えない層
  • ターゲット
    スタートアップ人材、共働き世帯など、東京の競争力維持に必要な人材

安さの秘密は「定期借地権」

一等地である青山で周辺相場より2~3割程度安く供給できる最大の理由は、土地の権利にあります。

  • 土地代の不要
    事業者が土地を買い取るのではなく、東京都から「定期借地権(70年)」で借りる形をとります。土地の購入費がゼロになる分、そのコストを家賃や分譲価格の安さとして還元できます。
  • 街づくりの狙い
    富裕層向けの超高級エリアに、あえて中間層が住める住宅を作る「ミックスインカム(所得の異なる層の共存)」な街づくりを目指しています。

今回の南青山プロジェクトの概要

  • 場所
    港区南青山(旧・児童相談所跡地など)
  • 規模
    約300戸を2026年度から供給予定

2. 日本の住宅市場を変える「追い風」と「壁」

今回のモデルは、住宅格差是正の大きな一歩ですが、「日本で主流になるか」という点では、構造的な制約に直面します。

追い風(普及を後押しする要因)

  • 実需の限界
    都心のマンション価格が高騰し、一般的な共働き世帯でも購入が限界に達しています。「条件付きでも安く都心に住みたい」というニーズは極めて高い状態です。
  • 行政の強い後押し
    東京都は「国際競争力の強化」を掲げており、都心の住まいを確保できないと、優秀な人材が流出するという危機感を持っています。そのため、都有地の活用を今後も積極的に進める方針です。
  • デベロッパーのメリット
    土地仕入れ競争が激化する中で、行政と組むことで一等地の安定した事業機会(事業性の確保)が得られることは、民間企業にとっても大きな魅力です。

壁(広がりにくい構造的な課題)

  • 土地の制約
    このモデルは「行政が都心の一等地にまとまった土地を持っていること」が大前提です。公有地は有限であるため、タワーマンションのように民間だけで次々と大量供給することは物理的に不可能です。
  • 「定期借地権」への抵抗感
    分譲(購入)の場合、「土地は自分のものにならない」「70年後には更地にして返還」という条件は、土地の所有を重視する日本人にとって資産性や心理面で抵抗感を生むネックとなります。
  • 公平性の議論
    「税金で賄われた土地の恩恵を、なぜ運良く抽選に当たった一部の層だけが受けられるのか」という不公平感が生まれるリスクがあり、行政も無尽蔵に供給数を増やしにくい側面があります。

3. まとめ|「モデルケース」としての価値

今回の南青山の事例は、まさに「日本版アフォーダブル住宅のモデルケース」として、その成否が注目されます。

  • ユーザー視点では「流行る」
    募集がかかれば高倍率の抽選になることは確実であり、需要は爆発的です。
  • 市場視点では「主流にはなり得ない」
    物理的な土地の制約があるため、「運が良い一部の人が住める特別な住宅」という立ち位置に留まる可能性が高いでしょう。

しかし、この成功体験が、今後は私鉄沿線の駅前再開発や、自治体が持つ郊外の遊休地活用など、「自治体の土地×民間開発」による同様のモデルが都心部以外へも波及していくための大きな推進力となることが期待されます。

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