序章 いまなぜコンサルがこれほど人気なのか
ここ数年、コンサルは新卒が最初に選ぶキャリアとして定着しつつあります。高い年収と成長環境を期待する学生にとって、一見わかりやすい魅力を持つためです。また、ITエンジニアの道を少し進んだのちに、転職先としてコンサルを選ぶ人も珍しくありません。
本記事では、いまなぜコンサルがこれほど人気になっているのかを深掘りします。そのうえで、筆者自身が最終的にはエンジニアとして活動するほうが良いのではないかと考えている理由についても触れます。
前提として、ここで扱うのはコンサルの中でも特にITコンサルです。
コンサルとエンジニアの違いを整理する
人気の理由を理解するためには、まず両者の役割が本質的にどう異なるのかを押さえておく必要があります。
役割とアウトプットの違い
コンサルは「言葉」で問題を整理し、方針やタスクとして構造化します。一方、エンジニアは「動くもの」をつくり、仕様として実装し続けます。
| 項目 | コンサル | エンジニア |
| 役割 | ・課題を言語化する・方針やタスクに落とし込む | ・システムやプロダクトを形にする |
| アウトプット | ・提案書・議事録などのドキュメント | ・コード・設計書・運用フロー |
ミッションと責任範囲の違い
コンサルはプロジェクトの結論づくりに関与しますが、その後の運用や障害対応には基本的に関わりません。エンジニアは成果と負債を引き受けながら、継続的にプロダクトを成長させます。
| 項目 | コンサル | エンジニア |
| ミッション | ・結論や進め方を整理する | ・実際に動くものをつくる |
| 責任範囲 | ・保守や長期成果には基本的に関与しない | ・保守と改善を担い続ける・トラブル対応も含む |
時間単価と成果保証の違い
コンサルはタイムチャージの世界です。論理性が通っていれば責任は限定的であり、出来上がった後の結果まで担わない構造になっています。エンジニアは成果物の動作や品質で評価され、責任範囲が広がります。
| 項目 | コンサル | エンジニア |
| 報酬の考え方 | ・時間単位で価値を売る | ・成果物が動くかどうかで評価される |
| 成果保証 | ・論理が通っていれば保証範囲は限定的 | ・プロダクトや事業の結果に直結する |
日本でITコンサルが増えてきた背景
人気の理由を理解するには、日本におけるITコンサルの歴史的背景も重要です。
かつての日本型コンサルとSI
当時のコンサルは、製品に付随する「導入支援」に近い位置づけでした。
・電機メーカーやSIerが、自社製品に紐づけてコンサルを提供していた
・日本製品や国産システムが中心だった時代のモデル
外資系サービスと製品が入り込んできた流れ
クラウドサービスの導入やデジタル化が加速したことで、外資主導のコンサル需要が伸びました。
・外資系クラウドやパッケージ製品が急速に普及
・それらを導入するためのITコンサルが必要とされた
・結果として「ITコンサル」という職種が表舞台に出てきた
日本のコンサルと外資系ITコンサルの違い
こうして外資系ITコンサルは「人気の受け皿」として急成長しました。
・外資系は稼働時間に対する単価が高い
・忙しさが同程度なら高単価に流れるのは自然
・仕事内容の差よりも、報酬構造とブランドが大きく影響している
コンサルに求められる能力とは何か
人気の理由には、コンサル特有の能力が持つ汎用性が関係しています。
時間単位で価値を出すという発想
・すべての作業が時間単価で管理される
・短時間で高い品質のアウトプットが求められる
・議事録など、スピードと精度を両立する力が重視される
タスクの言語化と分解
・課題を言語で定義する
・役割と期限を明確にし、抜け漏れを排除する
・タスクを構造化して整理する能力が中核になる
核心となるのは論理性
・どの結論にどう導くかを論理的に説明できること
・仕事の進め方そのものを構造化する力
・この論理性こそが、コンサル能力の基盤になっている
こうした能力は多くの職種に転用でき、若手にとっては魅力的に映ります。
だからコンサルはなぜこれほど人気になったのか
以上の背景と能力を踏まえると、人気の理由が整理できます。
高い報酬とタイムチャージのわかりやすさ
・外資系ITコンサルの給与水準は高い
・時間単価が高いこと自体が魅力
・同じ労力なら単価の高い仕事を選ぶと考える人が増える
汎用的な基礎能力が身につきそうという期待
・論理性
・タスク分解
・プロジェクト推進や合意形成
・多くの場面で使える能力が習得できるという期待がある
特に若手は「つぶしが利きそう」という安心感を重視します。
外資サービスの看板とキャリアブランド
・グローバルサービスに携わるという憧れ
・名刺の肩書がもたらすブランド価値
・努力が可視化されそうな環境として受け取られやすい
この三つが組み合わさり、コンサルは若手にとって魅力的なキャリアとして映っています。
それでもエンジニアのほうが良いのではないかという問題意識
人気とは別に、筆者は最終的にはエンジニアが良いのではないかと考えています。
成果に対してコミットするのは誰か
・コンサル
・進め方や結論をまとめた時点で役割は終了することが多い
・保守や運用には関わらないことが一般的
・エンジニア
・実装し、運用し、障害にも向き合う
・成果と責任を長期で引き受ける
実際に価値を生み続けるのはエンジニアであり、事業を支えるのもエンジニアです。
コンサル需要が今後減っていくかもしれないという仮説
・多くの企業が内製化を進めようとしている
・デジタル価値の中心は実装と運用であり、最終的にはエンジニアが不可欠
・論理よりも「手を動かして変える力」が重要になっていく可能性が高い
この変化により、外注としてのコンサルの役割は少しずつ縮小すると考えられます。
一度コンサルで基礎能力を学ぶことの意味
・論理性やタスク分解力を鍛える場としては優れている
・しかし、その力をどこで生かすのかを意識する必要がある
・キャリアを終える場所ではなく、通過点にする選択も十分にあり得る
◉ 結論 エンジニアとして日本のGDPに寄与するという選択
筆者は最終的にエンジニアとして活動することが、日本のGDPに直接関与する形で価値を出せると考えています。
・コンサルの人気を否定するものではない
・基礎能力を鍛える場としてコンサルを選ぶこと自体は合理的
・ただし、価値を形にし続けるという意味ではエンジニアのほうが社会との距離が近い
みなさんへの問いかけです。
・自分はどこで何を生み出したいのか
・コンサルに惹かれるなら、その先にどのようなキャリアを描いているのか
コンサル人気の背景を理解しつつ、自分が生み出したい価値をどこで実現するのかを考えることが、これからのキャリアづくりに役立つはずです。