ここ数年のコンサル業界は、外注費の増加や内製化の流れによって需要が徐々に揺らぎ始めています。もしこのまま需要低下が続くと、コンサル会社の構造は大きく変化し、働く人にも大きな影響が及びます。
コンサルで得られる能力は確かに有用です。論理性や資料作成力、プロジェクト推進に必要な整理力などは、多くの業界で評価される力です。しかし、コンサル会社という枠組み自体が今後どこまで維持されるかは不透明です。
本記事では、需要低下が起きた際のシナリオと、コンサル人材がどこへ流れていくのか、そして日本社会にとってのメリットとデメリットを整理します。
需要低下が起きた場合の基本シナリオ
コンサル需要が減ると、案件数もアサイン構造も再編されます。ここでは起こりうる変化を順番に見ていきます。
案件数減少とアサイン競争
ベンチ期間の増加とモチベーション低下
・案件自体が少なくなるため、待機期間が延びる
・ベンチ期間が伸びると、能力発揮の機会が減り、評価に不利になる
・長期化すれば離職意向が高まり、業界全体の流動性が増す
待機が続くほど、精神的負担が増し、モチベーションの維持が難しくなります。
評価と昇進への影響
・アサインされなければ評価が上がらない構造がコンサルにはある
・案件が減れば昇進スピードが全体的に鈍化する
・若手にとって「早く成長できる」という魅力が薄れる
需要低下は、コンサルの特徴だった成長速度の速さを損ねる可能性があります。
組織再編と人員調整
成長領域へのリソース集中
・AIやクラウドなど成長領域に人材が再集中する
・逆に成熟領域のコンサルは縮小し、人材が余剰化する
・事業ポートフォリオの偏りが強まり、配置転換が進む
企業は利益の出る領域に集中するため、得意分野が合わない人材は別の部署へ移動せざるを得なくなります。
支社統廃合や撤退の可能性
・地方拠点や小規模領域はコストカットの対象になる
・採算が取れない領域から撤退し、会社全体がスリム化する
・その過程でリストラや早期退職が起こる可能性もある
全体として組織は小さくなり、競争はさらに激化します。
放出される人材が向かう先
コンサル人材は能力の汎用性が高いため、多様なキャリアパスに進む可能性があります。ここでは転身先の典型パターンを整理します。
事業会社への転身パターン
経営企画や新規事業への着地
・コンサル経験で培った論点整理や資料作成力は経営企画と相性が良い
・改革推進やDXなど、企業内でのプロジェクト事務局業務に活かしやすい
・事業会社の内製化の流れとマッチし、採用が増えている領域でもある
ただし、事業会社の仕事は泥臭く、日々のオペレーションも多いため、ギャップに苦しむケースも見られます。
プロジェクトマネジメント人材としての需要
・プロジェクト推進のスキルは多くの企業で不足している
・業務設計や計画立案の経験は評価されやすい
・ただし外資コンサルほどの単価は期待できないため、収入ギャップに悩む可能性がある
スキルは評価されても、報酬が落ちることで心理的に折り合いが付かない人もいます。
スタートアップや外資への移動
フェーズが違う環境で生きる強み
・スピード感が求められるスタートアップでは、論理性と推進力が強みになる
・外資の事業会社では英語力や資料作成力が高く評価される
・数年間だけでも即戦力として期待される場面は多い
ただし、どちらも実働が求められる場面が増え、机上でまとめるだけでは通用しません。
倒れるケースで共通する落とし穴
・コンサル特有のスピード感や単価の高さに慣れすぎている
・泥臭い実務への耐性が低い
・長期的に同じプロダクトに関わる根気が不足している
こうしたギャップに負け、短期間で離職してしまうケースも珍しくありません。
日本のビジネス環境へのメリットとデメリット
コンサル人材が事業側へ流れる現象は、社会全体にも影響を与えます。
メリットとして期待できる点
事業会社側の企画力向上
・論理性や資料作成力が事業会社に持ち込まれる
・中堅企業などで企画力が底上げされる可能性がある
・日本企業の意思決定スピードが改善する効果も期待できる
これは日本経済にとって非常に大きなプラスです。
実行人材の厚みが増す可能性
・これまで外注していた改革業務を自ら進める企業が増える
・推進力のある人材が事業側に流れることで、内製化が加速する
・企業としての自走力が高まる
結果として、外部依存ではなく自力で改革を進める企業が増える流れが生まれます。
デメリットとして現れうる点
高度専門領域の知見が薄まるリスク
・コンサル減少により、専門領域の知見が共有されづらくなる
・分析、戦略策定、先端技術などの領域でノウハウ不足が発生する可能性がある
特に戦略や業界特化領域では、専門人材の希少性がより強まります。
短期での変化に対応しづらくなる懸念
・外部の視点が減ることで、企業が内側に閉じやすくなる
・意思決定が遅れ、競争力を失うリスクがある
・内部の経験だけでは見えない課題を見落とす可能性が高まる
コンサルの弱点ばかりではなく、外部知見の重要性も同時に意識する必要があります。
おわりに
コンサル需要が下がる未来には、次のような変化が起こると考えられます。
・案件が減り、コンサル会社の構造が縮小する
・人材は事業会社やスタートアップに流れ込む
・論理性が事業側へ移転することで、日本企業の底力が上がる可能性がある
・一方で専門知識の蓄積が弱まり、変化対応が遅れるリスクもある
コンサルが不要になるわけではありません。しかし外注を中心に回してきた時代は終わりに近づき、役割はより限定的かつ専門的な方向へ収束していきます。
そのなかでコンサル出身者がどのように事業側で価値を発揮し、長く貢献できるかが問われていく時代になります。