ITエンジニア転職はなぜ難しくなっているのか【連載②】

筆者自身、二年間にわたり転職活動を続けた経験があります。もともとはメディカルやヘルスケア領域の経営企画を志望していましたが、前職では銀行システム系の業務が中心となり、希望とかけ離れた環境にいたことが転職期間の長期化につながったと分析しています。

しかし、この個人的要因を差し引いても、今のITエンジニア転職は確実に難易度が上がっていると実感しています。

ぱっと見の求人件数と体感のギャップ

ITエンジニアの求人は一見すると非常に多く見えます。しかし、実際に応募し書類選考を通過できる求人は驚くほど少ないと感じます。このギャップには明確な理由があります。

求人は多いのに通らないという違和感

求人票が示すものと実際のニーズの差

筆者自身も求人を多く見ましたが、特定製品の経験を大量に求める求人が多く、本当にこの条件に当てはまる人材がどれだけいるのか疑問になるほど特殊なものも目立ちます。

・ITエンジニアという言葉の範囲は広く、扱う技術も工程も多岐にわたる

・企業や案件ごとに扱う製品が全く異なる

・そのため、求人票には「その会社独自の特定技術」に強く依存した要件が記載される

・見る側は多く感じても、自分のスキルに一致するものは限られる

「誰でもよい募集」がほとんど存在しない現実

求人が多く見えるのは、工程や技術領域が細分化されているからであり、応募者が通れる枠は実は狭くなっています。

・未経験歓迎のような幅広い募集は減っている

・募集要件には「特定スタックの実務経験」が強調される

・採用側は必要な技術が明確なため、幅広く採る必要がない

求人がすぐ消える理由

早期クローズと内定辞退の裏側

いわゆるフロー求人と呼ばれるものは、出ては消え、消えてはまた出るというサイクルが早いため、求職者が「求人が多い」と錯覚しやすい構造があります。

・ITエンジニア市場は流動性が高く、応募が集中しやすい

・短期間で候補者が一定数集まるため、求人がすぐ非公開になる

・内定辞退も多く、採用側も求人を出したり引っ込めたりを繰り返す

採用計画と現場事情のズレ

こうして求人は多く見えても、実際に応募者とマッチする絶対数は限られています。

・現場の人手不足と経営側の採用計画が一致しない

・急な案件増で求人が増えるが、状況が変わればすぐ止まる

・中途採用は常に状況変化に左右される

企業側の選考基準の変化

企業が求めるエンジニア像はこの十年で大きく変わりました。その変化が転職の難易度を押し上げています。

即戦力要求の強まり

使用技術スタックの一致が重視される背景

・今のIT現場は扱う製品や技術が個別特化している

・学習すれば対応できる技術より、即日から戦力になる経験が優先される

・特定クラウドや特定言語を深く触った人材が求められやすい

そのため、応募者の経験と企業の技術構成が一致しないと、書類で落ちやすくなっています。

実務経験年数よりも成果事例が問われる流れ

表面的な年数ではなく、深さや再現性が見られる時代になっています。

・単に三年や五年触っただけでは評価されにくい

・どのような成果を出したか、どのような課題を解決したかが重視される

・採用側は再現性のある成果を欲している

ポテンシャル枠の縮小

未経験歓迎が減っている領域

・ITエンジニアが過去十年で大量に増えた

・企業側は未経験採用より、少し経験した中途を採るほうが効率的という判断が強まっている

・その結果、未経験歓迎の求人が体感で減っている

中途採用で「育成コスト」を嫌う理由

・若手が長く同じ会社にいる前提が崩れている

・教育してもすぐ転職されてしまうという懸念がある

・そのため初期教育コストが不要な人材が望まれやすい

こうしてポテンシャル枠が縮小し、中途転職はより狭き門になっています。

転職希望者が陥りやすい誤解

求人が多く見えることで、求職者側にも誤解が生じやすいです。

「応募すればどこかは通る」という発想

書類落ちのパターンを分析できていない問題

・落ちた理由を深掘りしない

・自分の経験と企業の期待のズレに気付けない

・技術領域のミスマッチが続いても戦略を変えない

こうした姿勢では、応募数の割に通過率が上がらず、転職期間が長期化します。

応募軸が曖昧なまま数を打つリスク

・扱いたい技術が定まっていない

・業界や領域の希望が曖昧

・その結果、求人の選定がブレて書類が通りづらい

筆者自身も当初はここに陥り、二年間の転職期間につながったと感じています。

市場を正しく読むための視点

年収水準と求められるレベル感の対応

・年収を上げたい人が増えている

・企業側も高い年収には高いスキルを求める

・このギャップが書類落ちの一因になっている

エンジニアは転職で年収を上げる傾向があり、応募者の期待値が高くなりやすいことで市場の難易度がさらに上がります。

自分のポジションを棚卸しするチェックリスト

・扱える技術と扱えない技術の整理

・深く経験した領域はどこか

・成果として語れる事例は何か

・今の年収と能力の市場相場は一致しているのか

こうした自己理解が不足すると、どれだけ応募しても通らないという状況になります。

おわりに

ITエンジニア転職が難しい背景には

・求人の構造と技術特化

・即戦力要求の強まり

・ポテンシャル枠の減少

・応募者側の誤解

が複雑に絡み合っています。

求人が多く見えるからといって、自分に合う求人が多いわけではありません。市場と自分の位置を正しく理解することが、転職成功の鍵になります。

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