東京都心部の新築マンション価格は、平均1億円超えが「当たり前」となり、もはや一般的な会社員の給与水準では手が届かない水準に達しています。
この価格高騰は、建築コストの上昇だけでは説明がつかない異常な状況です。
一体、誰がこの高騰を支え、そして誰がこの状況で得をしているのでしょうか。今回は、現在のマンション価格を決定づける構造的な背景と、日本人が受ける恩恵について整理します。
1. 価格高騰の構造的要因|なぜ青天井なのか?
マンション価格がこれほどまでに上がり続ける背景には、公的抑制力の消滅と、市場原理の暴走という二つの構造的な変化があります。
変化1|価格の歯止め役だった「住宅金融公庫」の廃止
かつて存在した住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)は、住宅ローンを貸し出す対象となる物件の価格や質を厳しく監視・規制していました。
- 抑制力 公庫の融資を受けるには、販売価格が公庫の基準を超えてはなりませんでした。また、売り出し後の値上げも許されませんでした。
- 廃止の影響 2007年の公庫廃止により、この公的な「タガ」が外れました。これにより、マンション価格は純粋な市場原理に委ねられることになります。
変化2|「原価」ではなく「需要」が価格を決める時代へ
現在は、土地代や建築費といった「原価の積み上げ」ではなく、「その価格で買う人がいるか」が価格を決定する最大の要因となっています。
販売中に人気が殺到すれば、販売途中で数千万円単位の強気な値上げが行われることも珍しくありません。これは、公的抑制力がなくなった結果、市場の熱狂や投機マネーに価格が左右されるようになったことを示しています。
変化3|「実需」から「投資」への転換を国が容認
住宅市場は少子化により、マイホーム用の「実需」だけでは縮小する懸念がありました。
- 国の思惑 不動産業界の維持やインフレ対応、資産価格の上昇による経済活性化を重視する観点から、国は海外や富裕層の投資マネーが市場に流入すること、それに伴う価格上昇を事実上容認する形となりました。
2. マンション価格高騰で得をするのは誰か?
青天井の価格高騰は、日本の多くの国民にとって「マイホームが買えない」という形でデメリットになりますが、その裏側で明確に利益を得ている層が存在します。
① 不動産デベロッパー・業界
これが最大の受益者です。土地の仕入れ値や建築費が上がっても、それを上回る販売価格で売れるため、利益率が向上します。特に都心の一等地で事業を行う企業は大きな恩恵を受けています。
② 既存のマンション所有者(富裕層・高齢層)
価格が上がれば、彼らが持つマンションの資産価値が上昇します。
- 富裕層 都心に複数のマンションを所有している場合、含み益(売却益)が数百億円規模に達することもあります。
- 高齢層 老後の資金繰りの際、自宅を高値で売却できれば、その後の生活の選択肢が広がります。
③ 投資マネーを投じる層(海外富裕層・国内投資家)
「資産防衛」や「インフレヘッジ」のためにマンションを購入している層です。日本のマンションが安全な投資先として選ばれているため、価格上昇はその期待に応える形となります。
3. 日本人の多くに恩恵はあるか?
現時点で、高騰による恩恵を「直接的」に受けているのは、すでにマンションを所有している一部の層に限られます。
恩恵を感じにくい多数派
- これから家を買いたい若年層・中間層
「高すぎて買えない」というデメリットが直撃しており、資産形成の機会を失っています。 - 賃貸居住者
持ち家率が低い層は、この資産価格の上昇の恩恵を一切受けられません。むしろ高騰した不動産価値が家賃に転嫁されれば、生活コストが上がる可能性があります。
唯一の恩恵|担保価値の上昇
高騰は、住宅ローンをすでに抱えている層(特に30代・40代)の「担保価値」を押し上げます。つまり、万が一の際の売却時や、借り換え・追加融資の際の信用力が向上するという間接的な恩恵はあります。
まとめ
都心マンション価格の高騰は、金融緩和やインフレ、そして海外マネーの流入など、複合的な要因で起きていますが、その根底には「公的な価格是正メカニズムがなくなった」という構造的な変化があります。
結果として、価格は市場の熱狂によって決まり、「すでに持っている人」や「投資する人」が得をする一方で、「これから買いたい人」を排除する方向に進んでいます。